最近、家族だけで行う「火葬式」が注目を集めています。今回は、50代のS子さんが実際に火葬式を経験し、その流れや費用、感じたことをリアルに語ってくれました。

2023年に実際に体験した火葬式の様子です。
現在は料金体系やサービス内容が異なっていると思いますが、
その点はご了承ください。
「火葬式の満足度は95点。でも、読経はした方が良かったかな・・・」
まず最初に、火葬式に対する私の満足度は、95点。
費用は必要最低限の8万9000円に抑えられ、子供達と孫だけで、飾ることなく本音で語りかけ、心から父とのお別れの時間を大切に感じることができたのがその理由です。
そして拘束時間も短く、体力的にも精神的にも負担が少なかったのには本当に助かりました。
葬儀会社の人は安い料金プランだからと手を抜くようなことはせず、些細な疑問にも答えて下さり、終始丁寧な態度で接して下さいました。
初めての火葬式でしたが、全体を通して満足のいくものだったと思います。
もし一点だけ心残りがあるとすれば、それは読経を行わなかったこと。
父は時々仏壇に手を合わせていたので、多少なりとも信仰心はあったと思います。ですが今回は、一切のオプションをつけなかったので、お坊さんを呼ぶこともせず、特に宗教儀式らしいことは何も行いませんでした。ただ静かに家族だけで送り出す形を選んだのです。
父が亡くなって落ち着いたころ、このことに気づき、なんだか申し訳ないような気持になりました。
でも、あれから2年。完璧な送り方ではなかったかもしれませんが、形式にとらわれなくても、心を込めて想いを届けることができた——今はそう思えるようになりました。
それでは火葬式の実際の様子をご紹介しますね。
■ 火葬式と葬儀会社を決めるまで
2023年夏、入院していた父の容体が急変して葬儀の準備が必要となりました。
父には住宅ローンが残っており、預貯金はわずか。私達子供世代はちょうど教育費や住宅ローンと重なり出費が厳しい時期。そんな中、父の残した住宅ローンを完済するために予想外の出費を迫られましたので、葬儀費用はできるだけ抑えたいというのが本音でした。
父には妹がいますが高齢のため出席は難しく、仲の良い友人達は既に他界。結局参列者は私、姉、兄とその子供の4人だけ。
私達兄弟はお互い仕事も休みにくい状況で、自然と「できるだけ小さく、負担の少ない形で送ってあげよう」という気持ちでまとまりました。
葬儀会社は、姉が事前にA社に資料請求をしていました。火葬式が詳しく紹介されていてそのまま会員登録をしたとのこと。この事前会員登録により料金が大きく割引され、通常14万4000円のところ、8万9000円になったのはありがたかったです。
価格には、病院からの搬送、安置、ドライアイス、納棺、手続き代行、骨壺などが含まれており、オプションや割増は一切つけませんでした。
■ 火葬式当日の流れ
▷ 病院からの搬送
父が息を引き取った後、兄が葬儀会社に連絡。夜にもかかわらず、スタッフが病院まで引き取りに来てくれました。
ただし、時間帯によっては深夜料金が加算されることがあるので、事前に確認しておくと安心です。
▷ 葬祭ホールでの対面
遺体は病院から搬送された後、葬儀会社が運営する葬祭ホールに一晩安置されました。翌日、待合室のような装飾のないシンプルな部屋で、納棺された父と最後の対面ができました。オプションのラストメイクをつけていなかったため、口が自然と大きく開いており、それを抑えるかのように巻かれている白い包帯を見たときは少し驚きました。
短時間ではありましたが、棺にお花や好きだった物を入れて父とお別れをしました。通常は私達の選択したプランだと火葬場で数分の対面だけでしたので、これは葬儀会社の計らいだったようです。
▷ 火葬場での別れ
火葬場へは私達4人はタクシーで移動。控室は利用せず、一般の待合ホールで順番を待ちました。
順番が来ると火葬場で最後のお別れ。読経などの宗教儀式は行わず、皆で手を合わせた後、静かに送り出しました。火葬後は収骨を行いましたが、ここまでの流れは葬儀会社の人が丁寧に教えてくださいましたので特に困ることはありませんでした。ここで葬儀会社の人と別れ、骨壺を自宅に持ち帰って終了です。
■ 火葬式を低価格で行うための条件
今回、火葬式を8万9000円で実現できたのは、以下のような条件が揃っていたためです。
- 事前の会員登録で割引が適用された
- 火葬料金が無料の自治体だった
- オプションを一切付けなかった
- 宗教儀式を一切行わなかった(無宗教)
- 火葬までの日数が短く追加費用が発生しなかった
- 無宗教OKの共同墓地が既にあった(=お寺との連携が不要だった)
- 親族・知人を呼ばず家族だけで行った
ここで一つ大切な注意点です。
今回は、お坊さんを呼ぶなどの宗教的な儀式やオプションを一切つけなかったからこその料金です。
でもこれは、戒名は用意せず、四十九日や一周忌は行わないということです。なぜならお寺とのつながりがないからです。
この点は個人差が大きいと思いますが、後から悩んだり、他人から批判されることもありますから、事前によく考え、周囲の人と話し合っておくことをおすすめします。
■ 火葬式を選ぶ前に考えておきたいこと
火葬式はシンプルで合理的な選択ですが、家族全員が納得できるとは限りません。実際、今回は姉が主導し、兄と私も同意できたからこそスムーズでしたが、誰かが「お坊さんなしは寂しい」と感じていたら、話し合いが必要だったと思います。
また、親戚や地域の風習によっては、通夜や告別式がないことに戸惑う人もいます。火葬式を選ぶ際は、兄弟姉妹や親族の価値観をすり合わせておくことも大切です。
加えて、お墓の宗派によっては宗教行事を行っていないと納骨を断られることもあります。用意しているお墓が、お寺か無宗教の霊園かを確認し、「火葬式のみ」という形式が受け入れられるかどうかも事前にチェックしておきましょう。
■まとめ
費用を抑え、シンプルに最期を見送る選択肢として、火葬式は現代に合った魅力的な形のひとつです。しかし、その選択が「良い送り方だった」と心から思えるかどうかは、遺族の気持ちが一致しているかどうかに大きく左右されます。
少子高齢化や家族構成の変化、そして伝統的価値観の見直しなどにより、葬儀やお墓をめぐる考え方も多様になってきました。選択肢が増えた分、迷いや葛藤も生まれやすくなっています。
だからこそ、本人の希望はもちろん、家族や親族との話し合いを大切にし、後悔のないかたちを一緒に見つけていくことが、いまの時代に必要な「送り方」なのかもしれません。